コラム

COLUMN

介護施設 2024.04.17

高齢者の安全運転とドライビングシミュレーター:介護施設における新たなアプローチ

高齢者の安全運転とドライビングシミュレーター:介護施設における新たなアプローチ

目次

高齢者の安全運転への意識向上

~高齢者の自動車事故の現状~

高齢者の自動車事故は、交通安全に関する深刻な懸念事項の1つとして、近年ますます注目されています。一部では、高齢者の運転能力の低下が原因とされ、その結果、事故の発生率が高いと指摘されています。一方で、郊外に住む高齢者にとっては生活のために車が手放せない背景もあり、国民全体の安全を守っていくために避けては通れない課題です。

1. 高齢者人口の増加
日本の高齢者人口(65歳以上)は増加しており、令和元年10月1日現在で3,589万人となっています。団塊の世代が75歳以上となる令和7年には、65歳以上人口は3,677万人に達する見込みです。高齢者人口の増加に伴い、高齢化率も上昇しており、令和18年には全人口の約3人に1人が65歳以上となりました。

2. 運転免許保有者の高齢化
運転免許保有者数も高齢化しています。令和元年には8,216万人となり、70歳以上の運転免許保有者は1,195万人に達しています。特に75歳以上の高齢運転者は増加しており、運転免許保有者の14.5%を占めています。

3. 高齢運転者による交通事故
75歳以上及び80歳以上の高齢運転者による死亡事故件数は、令和元年には401件(75歳以上)と224件(80歳以上)となっています。これは前年と比較して減少しています。高齢運転者による死亡事故は、操作不適やハンドル操作不適によるものが多く、特に単独事故(工作物衝突や路外逸脱)が目立っています。

4. 対策の重要性
高齢者の交通事故防止対策が重要です。改正道路交通法では、高齢者の免許更新手続が改善されています。高齢者の安全な運転を支えるために、適切な対策と運転者教育が今後ますます必要です。

出展:特集 「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策について」 第1章 子供及び高齢運転者の交通事故の状況 第3節 高齢運転者の交通事故の状況

~安全運転意識の重要性~

高齢者の交通事故リスクを高める要因の1つに「安全運転への意識不足」が挙げられます。
具体的には下記のとおりです。

1. 運転能力の自己評価
高齢者は自身の運転能力を過信することがあります。自己評価が適切でない場合、危険な状況に遭遇した際に適切な判断ができない可能性があります。長年自動車を運転してきた癖や習慣が、危険な運転を引き起こしている場合もあります。運転者は定期的に”客観的な目線で”自己評価を行い、必要に応じて運転能力の改善や運転免許の更新を検討すべきです。

2. 情報の不足
高齢者は最新の交通ルールや安全運転に関する情報をキャッチアップできていないことがあります。運転者教育や啓発活動が不足している場合、安全運転への意識が低下します。高齢者に対して、適切な情報提供や教育プログラムを実施することが重要です。

3. 体力や健康状態の変化
高齢者は体力や健康状態の変化により、運転能力に影響を受けることがあります。視力や聴力の低下、反応速度の遅れ、反応した後の動作までの伝達の遅れなどが問題となります。定期的な健康チェックや運転能力の評価を通じて、運転者の健康状態を把握し、適切な対応を取ることが必要です。

4. 家族や社会のサポート
高齢者は家族や社会のサポートを受けることで、安全運転への意識を高めることができます。家族や友人が運転について話し合い、必要な支援を提供することが重要です。

高齢者の安全運転を支えるためには、個々の意識向上と社会的なサポートが両立することが求められています。

 

ドライビングシミュレーターの役割


~ドライビングシミュレーターとは~

ドライビングシミュレーターとは、運転能力の評価と訓練を可能にするものです。
シミュレーターで自動車運転シーンに近い環境を完備し、ドライビング技術の評価や訓練を行うことが可能です。リアルな画面と音響環境を発生させながら架空の市街地などを走行し、認知、判断、操作など運転に関わる複合的動作を測定します。

実際の自動車と同じように「シフトレバー」「ステアリング」「シート」「ブレーキ・アクセルペダル」が付いているフルセットバージョンもあり、運転操作に必要な手足の複合的動作を実際の車を運転しているような感覚で体験することができます。
Hondaドライビングシミュレーター DB型ModelA

また、シミュレーション終了後は、受講者に対する指導ポイントが分かりやすく表示された検査結果資料を確認することができます。このフィードバックがあることで、自身の自動車運転について客観的に把握することが可能となります。
ドライビングシミュレーターとは

~ドライビングスキル向上への効果~

●運転スキルの的確な評価と効果的な指導
ドライビングシミュレーターでのシミュレーション終了後、独自のデータ解析技術により、受講者の運転スキルを的確に評価し、改善点を明確に示します。検査結果資料には、分かりやすい指導ポイントが提示され、安全な運転への具体的かつ適切なアドバイスが提供されます。

●多様なトレーニングシナリオの実現
ドライビングシミュレーターは、幅広い状況をリアルに再現する柔軟性に優れています。バーチャルな道路から高速道路まで、実車と遜色ない体験が可能です。さらに、複雑な交通状況や悪天候下での運転などのシチュエーションを追加することで、トレーニングの効果を最大化します。

 

介護施設でのドライビングシミュレーターの活用事例


~安全運転意識向上プログラムの導入~

ドライビングシミュレーターはリハビリテーションなど医療の現場では活用されていましたが、近年、介護施設へのドライビングシミュレーター導入が広がり始めています。

日常生活に欠かせない “運転”を安全かつ健康にできるように、介護施設の支援メニューの1つとして取り入れたり、介護保険の適用を活用してリーズナブルなシニアフィットネスとして「ドライビングシミュレーター」を設置いただいたりしています。

~フィットネスプログラムへの組み込み事例~

茨城県にある介護老人福祉施設しらとりハワイアンデイ様では、マシントレーニングやレッドコード、陶板浴などのシニアフィットネスメニューと合わせて「運転シミュレーター」を取り入れています。ドライビングシミュレーターを使用することでご自身の運転の癖を把握することで、実際に運転をする際にも心がけることによって健康で安全に運転できる状態を維持できることを目指しています。

しらとりシニアフィットネスメニュー

まだまだ元気に体も動かせる、歳を重ねてもずっと自立した生活を続けたい、という方にこそ、ドライビングシミュレーターを使って自動車運転についても見直すことで健康・安全な生活を目指していただくことができます。

 

ドライビングシミュレーターの活用における展望と課題

 

ドライビングシミュレーターの介護施設での活用事例を通じて、その効果と可能性が明らかになりました。しかし、これからの展望と課題も見逃すことはできません。

まず、ドライビングシミュレーターの活用は、高齢者の安全運転意識向上に大きな貢献を果たしています。安全運転への意識を高め、実際の運転に生かすためには、さらなる普及と利用の促進が必要です。介護施設や福祉施設におけるドライビングシミュレーターの導入が、これからますます増えることが期待されます。

一方で、課題も存在します。まず、介護施設への導入や利用には費用や設置スペースの問題があります。高齢者の施設入居者にとって、ドライビングシミュレーターがどれだけ利用しやすいか、その利便性や効果を検討することが重要です。また、シミュレーターの利用には適切な指導やサポートが欠かせません。介護施設のスタッフや専門家が、利用者に対して適切なトレーニングやフィードバックを提供する体制が整備されることが求められます。

さらに、ドライビングシミュレーターの技術の進化や、利用者のニーズに応じたカスタマイズが求められます。利用者の運転スキルやニーズに合わせた多様なシナリオやプログラムの開発が重要です。また、シミュレーターのデータ解析技術の向上や、リアルな運転体験をさらに向上させる技術の開発が期待されます。

総じて、ドライビングシミュレーターの介護施設での活用は、高齢者の安全運転意識向上や健康維持に大きな可能性を秘めています。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、費用や設備、指導体制の充実と共に、技術の進化や利用者ニーズへの柔軟な対応が欠かせません。今後もドライビングシミュレーターの活用を通じて、高齢者の安全運転を支える取り組みがさらに発展していくことが期待されます。

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